ノーカントリー NO COUNTRY FOR OLD MEN

Posted: 10月 10th, 2008 | Filed under: サスペンス

「変えられると思うのは、傲慢だ」


■ストーリー
テキサスの溶接工のモス。
ハンティングの途中、荒野のなかで複数の死体とピックアップトラックを発見する。
そして、その場には大量のヘロイン、少し離れたところに現金200万ドル。
モスは200万ドルを持って逃げる。

やがて殺し屋シガーは金を取り戻すためにモスを追う。
保安官ベルも、モスの身柄の保護とシガーの逮捕のために二人を追いはじめた。

殺し屋シガーは冷徹に容赦なく自分の邪魔者を殺していく。

果たして、モスは逃げ切れるのか、ベルはシガーを捕えることができるのか_。




■最後まで震えるほどの緊張感
酸素ボンベを改造したような凶器を持つ、殺し屋モスの冷酷非情な殺人の数々。

な、なに、この気味悪さ。

奇妙なストレートのロングヘアーが余計に不気味。
ほとんど笑わない。セリフもない。

たまに話す言葉は支離滅裂。

そこで気づく。

この作品は、現代に起きている不可思議な犯罪を示唆しているのだと。

アメリカで製作された作品だが、描かれている内容は日本で起きても何ら不思議ではない。
通り魔、快楽殺人、親戚を容赦なく殺し、親が子を殺し、子が親を殺す。
そんな現代の日本とダブってしまう。


■不条理な世界に同化する

冒頭のセリフで保安官が話す。
 
 「最近の犯罪は理解できない。」

 「この国はどうなっているんだ。
  女の子を殺した14歳の少年を逮捕したことがある。
  新聞は激情犯罪と書いたけれど、その少年は感情なんか何もなかったと俺に言った。
  地獄にいくのも分かっているとも言った。
  これをどう考えていいのか俺にはわからない。」

中盤で保安官が叔父に会いに行く。

 「人が敬語を忘れちまってから、こんな世の中になってしまった」

不条理な世の中では、もはや何が起きてもおかしくはない。
不条理で不可解な事件の数々に嫌気と限界を感じ、やがて保安官は辞職を申し出る。


ストーリー中で、殺人鬼モスと対峙する人たちが「そんなの意味がない」「殺す必要はない」と応える。
これが意味するところは何か。

モスにとって殺人行為とは「意味がない」ことではなく、自分のルールに従って行動しているだけなのだ。
果たして殺人鬼モスとは何者なのか。

人の前に突如として現れ、自分を見た者にその対価として「死」を与える不条理な殺人鬼という言葉でかたずけるには、とても難解な行為の数々だ。

誰にでもやがて訪れる、逃れられない死。
それは、過去であれば病気とか、事故、自然死という死因だろうが、作品中では不条理に、突如として訪れる。

これを象徴するのが殺人鬼モスなのか。


ラストで保安官の見た夢に、救いのあるひとすじの光が見える。
それは、暗闇を照らす光は先人が作って導くということなのか、それとも、暗闇に住むのは諦めて、あちらの世界に行け、ということなのか。




原題は「No Country for Old Men」。
直訳すると、「老人のための国でない」。

古き良きアメリカを懐かしむ老人には、住みにくい国が現代のアメリカだということだ。

やがて、それは日本にも言えるのだろう。


冒頭で保安官が話す。

 「このわけのわからない世の中で生きていくためには、ひとつになればいい」

不条理な世の中においては、不条理さと折り合いをつけて生きていけ。


■作りたいものを作る、コーエン兄弟の新境地
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が作りだす作品は、シュールであったり、人間の可笑しさ哀しさを描いたものだったが、本作品では音楽をバックにほとんど流さず、静寂の中で、淡々とした悪を描き出す。

アメリカの田舎町、テキサスとメキシコの荒涼とした風景、古いガソリンスタンドやモーテルといった、古き良きアメリカの光景を、緊迫感を溢れさせて描き出す。

ほとんどセリフが語られることはないが、セリフがほとんどないからこそ、老保安官役のトミー・リー・ジョーンズが発するセリフに強い重みがある。

バイオレンス・アクションなんだけど、内省的な部分もある。
そこに重みがある。


ラストはあっけないが、ぼ~っとしていると「しまった!」となるので注意。
エンドロールがはじまるまで、緊張感を解かずに、映画に集中して鑑賞して欲しい作品。

いろいろなシーンをカットしているような演出が多いが、そこがコーエン兄弟の狙い目。

観客ひとりひとりに、この不気味なストーリーの意味を考えてほしい、ということなのだろう。


ラストで「えっ!?」と狼狽している観客を見て、ほくそ笑んでいるコーエン兄弟が目に浮かぶようだ。

エンドロールが始まってすぐに、もう一度観てセリフやシーンにどんな意味があるのか理解を深めたいと思った作品は「マトリックス」に続いて2作目だ。



Tips:
・第80回アカデミー賞 作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞受賞
・ブロードキャスト映画批評家協会賞 作品賞、監督賞、助演男優賞 最多3部門受賞
・ノーステキサス映画批評家協会賞 監督賞、助演男優賞、撮影賞受賞
・カンザスシティ映画批評家協会賞 助演男優賞、脚色賞 受賞
・アイオワ映画批評家協会賞 作品賞、監督賞、助演男優賞 受賞
・第65回米国ゴールデン・グローブ賞 最優秀助演男優賞、最優秀脚本賞 受賞
・セントラルオハイオ映画批評家協会賞 作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞 受賞
・アメリカ監督組合賞 監督賞受賞
・ヒューストン映画批評家協会賞 作品賞、助演男優賞、名誉テキサス人賞 受賞
・アメリカ映画俳優組合賞 助演男優賞、アンサンブル演技賞受賞


・出演:ジョシュ・ブローリン、ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ
・監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
ノーカントリー



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5 人生は理不尽だし何が起こるかわからない。
3 コーエン兄弟はよくわからん
5 予めわかっていた運命
5 あらゆる基準を超越した作品…
5 原題は


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4 人は自分の運命を変えられない
4 「血と暴力の国」の象徴、圧倒的な殺人者シュガー
4 現代社会の持つ病根
5 アメリカ文学の異端にして先端
2 “このミス”では評価されていますが…


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