夕凪の街 桜の国
Posted: 10月 10th, 2008 | Filed under: ファンタジー, 文芸
長く生きて。そして、忘れないで。
とあるTV放送局の街頭インタビューで、8月6日が何の日か若い人に聞くと、答えられない人が多いのだそうだ。
8月6日とは広島に原子爆弾が投下された日である。
本作品は広島に落とされた原爆を題材に、過去と現在というふたつの時代を描き出す。
原爆被害という重いテーマを取扱っているが、身構えて観賞する必要もなく、さらりと見ることができる。
ただし、そこに息づくテーマはかなり重い。
本作品は、こうの史代原作の漫画「夕凪の街 桜の国」を映画化したもの。
漫画は韓国、フランス、アメリカ、オーストラリアなど十ヵ国で出版されていて海外でも注目が高い作品。
昭和33年を時代背景にした「夕凪の街」、平成19年の現代を描いた「桜の国」という2つのオムニバス形式のようだが、じつはストーリーはつながっている。
「夕凪の街」では、広島原爆投下後、生き残った被爆者の苦悩と愛する人への思い、「桜の国」では被爆二世による自分が生まれ育ってきたルーツを見つめ直す場面を通して、生きていくことの意味、喜びを描き出す。
なぜ原爆が落とされたのか、なぜ何十年も、何世代にも渡って被爆した事実に苦しめられなければならないのか、人はなぜ生きているのか、ということを問う。
原爆被害が背景にあるが、本質的なテーマは「生きる喜び」「平和への渇望」である。
どの時代も、誰しもが幸せに生きる権利を持つということを実感させられる作品である。
「夕凪」とは夕方、風の吹かない蒸し暑い気候のことを指す。
この作品の題名「夕凪の街 桜の国」とは、原爆被害で苦しむ被爆一世の苦しみを描く広島の街を指し、「桜の国」とは平和な現代日本を指しているのだろう。
いろいろなものが風化していくなかで、権威ある政治家でさえ「原爆投下はしょうがない」という発言がなされてしまうのは、自分たちが戦争のことを忘れていっているのだと思う。
たかだか60数年前のことである。
忘れるわけにはいかないのである。
忘れてはならないのである。
語り継がなければならない話があるのである。
昨今の憲法9条改正の議論を見ていると、どうも戦争に向かっているようにしか見えないのだが。
いまの政治家は、やっぱり忘れているんじゃないのか。
広島のある
日本のある
この世界を
愛するすべての人へ
++++++
邦画ってハズレ作品が多くて、正直言ってあまり期待しないで試写会に臨んだんだけど、これは合格点を上げられる作品だった。
過去と未来を交差するシーンが多く挿入されるんだけど、「地下鉄に乗って」みたいなダメダメ編集でボロボロな作品になることもなく、違和感なく観賞できた。
「半落ち」「出口のない海」を監督した佐々部清の才能の賜物だろう。
また、普通は試写会だとエンドロールがはじまったとたん、観客は怒涛のごとく席を立って出口に向かうんだが、ほとんどの観客が座席に座って余韻に浸っていたことも特筆すべきことだ。
テーマ曲はハーブ演奏者の「内田奈緒」によるもので、今回舞台挨拶で生のハーブ演奏によりテーマ曲を拝聴することができたが、美しい旋律にうっとり
こうした事前の情報インプットとあいまって、エンドロールに流れるテーマ曲に浸れることができた。
「夕凪の街」は麻生久美子が主演、「桜の国」は田中麗奈が主演。
麻生久美子は清楚で薄幸な26歳を演じ、田中麗奈は28歳のハッキリとした物言いの現代女性を演じる。
堺正章はおじいちゃんの演技が板につき、中越典子は上目づかいの視線がなんともカワユイ。
ただひとつ気になった点。
泣くシーンで、誰も涙を流していなかったこと。
プロなんだから、ちゃんと涙も出してよ。
出演:麻生久美子、田中麗奈、堺正章、中越典子、吉沢悠、伊崎充則、金井勇太、藤村志保
監督:佐々部清
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